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大人への入口。

高校2年だったか、3年の頃だったか。

当時の国語の先生が、教科書にはない短編小説をコピーしてきて、
授業を始めた。

中野重治の「踊る男」だった。

敗戦後の満員電車で人に潰されまいとぴょんぴょん飛び上がる短軀の男と
これをなじる女の話で、1949年の作品。

米軍占領下の日本人が置かれた立場を
満員電車を舞台にした比喩で表現したものだった。


なぜ先生が、この小説を扱ったのか、知る由もないが、か
当時のぼくは「時代」と「表現」がこれほど直結していることに、
かなり衝撃を受けていた。
また、「社会の現実」を初めて垣間見たような気がしていた。

授業の内容は記憶にないが、
ぼくにとっては大人への入口になったように思う。



昨日、福井県内の国道8号線を車で北上していると、
「中野重治文庫」の標識が目にはいった。
「えっ、福井県にゆかりがあったのか?」

車を停めてネットで調べてみると、
出身地が福井県の丸岡町で、
中野から寄付された蔵書などで図書館の中に文庫ができているらしい。


小さな図書館の端の一室に文庫はあった。
部屋の鍵を開けてもらって、ゆっくりと蔵書を見せてもらった。

実は中野重治の経歴などは全く知らないままだったのだが、
亡くなったの1979年。
あの授業はきっとその直後だったし、
実は少しだけ同時代の人だったのだ。

それだけに、ぼくのものと重なる蔵書を何冊か見つけたとき、
はるか彼方にいた人が少しだけ近くに感じて、甘ずっぱかった。

だって大人への入口のきっかけの人なのだから…。
by mesonbox1 | 2012-05-22 19:57